HILSの課題とトレンド(2)

前回の記事では、HILS構築においてプラントモデルがボトルネックになる、という事をご説明しました。

今回は、このプラントモデルにどのような種類の物があるのかを、ざっくりと分類してみます。blog090525_00

およそ、プラントモデルには既製品とオーダーメードとがあり、それぞれに得意な用途があります。

既製品モデル

既製品モデルには、「特定分野のモデル」と「物理モデリング系ツール」とがあります。

特定分野のモデルとは、車両ダイナミクスをシミュレートするものから、エンジンやFuel Cellのような車の1部をシミュレートするものまで、いろいろな範囲があります。また、高精度のものもあれば、そこそこの精度のものもあります。このあたりは、値段と性能との兼ね合いになります。これらのモデルを買ってきて使用する事により、自分で1から構築するのとくらべて随分楽にプラントモデルを構築する事が出来るようになります。

物理モデリング系ツールとは、モデルそのものではなく、モデル簡単構築ツールとでも言うべきものです。(そういった意味では、既製品ともオーダーメードともつかないものですが、あえて既製品の仲間に入れてみました)

たとえば、電気回路をシミュレートする場合を考えてみます。この場合、まずはじめに回路図をもとに微分方程式を立てます。次に、その微分方程式をSimulinkモデル化します。これが通常のSimulinkモデル構築の手順です。

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それでは、物理モデリング系ツールを使った場合はどうなるのでしょうか。この場合、回路図をそのまま書くだけで済みます。たとえば、MATLABのブロックセットであるSimPowerSystemsを使用すると、回路図をそのまま書いて、それをシミュレーション実行する事が出来るようになります。

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このように、微分方程式を記述するのではなく、モノとモノとをつなぎ合わせることでシステムを定義出来ます。対象システムをダイレクトに記述できるので、Simulinkブロックを駆使して作成する場合に比べ、ずいぶん楽になります。

回路図だけではなく、各種メカを記述できるツールも存在します。メカに関しては、とあるツールが一世を風靡していたのですが、どうやら最近とても残念な事になっているようです。そのうち再編が起きそうな気がします。(あれはもう、完全に自業自得だと思います。何かの拍子に訴えられるといけませんので、詳しくは書けませんが。)

Simulinkブロックで全てを記述するよりも絶対に楽ですから、次世代ツールが出そろった所でわっと広がるのではないかと思っています。ツール選定のポイントは、ツール価格になるでしょう。

オーダーメイドモデル

オーダーメイドのモデルは、基本的には高精度なものになるでしょう。物理モデリング系ツールを駆使して作りこんだモデルも、この仲間です。こういった高精度モデルを作るには、かなりの工数がかかります。ベンダーに依頼すれば、実機から取ったデータを元に、かなり精度のいいモデルを作ってもらえるはずです。(インドのとある会社が、オーダーメードモデルがとても得意で、お客さんの評判も上々のようです。ご興味があれば紹介いたしますのでご一報ください。)

こういったモデルは、単純に微分方程式を書いておしまいという風にはなりません。そのため、それなりにノウハウが要るようです。私はあまり詳しくはないのですが、いずれきちんと調べて記事にしたいと思っています。

オーダーメードのものが全て高精度かというと、決してそうではありません。とりあえずテストケースが走ればいいやという話であれば、非常にシンプルなモデルでも十分です。どんなテストをしたいかによってモデルが違ってきますので、どうしてもオーダーメードになってしまいます。この手のモデルは、だいたい自社で作られるか、協力会社さんにお願いして作ってもらう事が多いようです。

もっとも、ここまで来るともうCとかLabVIEWで書いても良くないか?という気はします。ただし、場合によってはシンプルなプラントモデルが入ってくる事もあるので、必ずしもそうではないのでしょう。デバッガ的モデルについては、もう少し整理出来そうなので、いずれ記事に出来ればと思います。

ちなみに、計測器プログラミングの代表としてLabVIEWの名前を出しましたが、実はかなり前からモデルベースにも対応しているようです。(最近とあるベンダーさんが、これをカスタムで請けてシステム構築してくれるサービスを始めたようです。)

HILSとモデル

高性能HILSで使うのであれば、オーダーメードで高精度のモデルを作ってもらうか、既製品モデルのうち高精度なものを選択して使う事になるでしょう。

低価格HILSで使うのであれば、あまりボリュームのあるモデルは実行できないでしょう。そこで、それなりの精度のモデルを既製品で見つくろってきて使うか、さもなければテストケースだけ走らせるようなシンプルなモデルを使う事になるでしょう。

たとえば、HV向けにモーターをシミュレートしようとした場合、真面目に磁場解析までやろうとすると大変な事になります。ですから、それっぽい動きのモデルで満足する事にしましょう。モーターそのものの仕組みは昔から大して進化していません。ですから、それっぽいモデルを作って動かす事は、そんなに難しい事ではありません。

低価格HILSを作りたいというのであれば、モーターモデルとしてこれくらい動けばいいだろうというような、必要最低限の機能を盛り込む必要があります。それには、モーターモデルに詳しい知識を持つエンジニアと、車両メーカーさんとで詳しい打ち合わせをしながら、作り上げていくしかありません。精度と価格のせめぎあいとなりますので、価格をおとしても良い部分を十分に見極める必要があるでしょう。

具体的な手順として、まずは高性能HILSを構築して実務適用してみるのが良いでしょう。そこから徐々に機能を落としていって、どこまでなら使い物になるのか?を見て行くのが良いと思います。

次回

次回は、さまざまなHILSを概観するために、 いくつかの軸を導入して分類を行ってみます。