HILSとは

HILSとは、より便利に使える検査装置です。何がどう便利なのか?という点について、従来型の検査装置と比較してこれからご説明します。

そもそも何を検査するのかといいますと、ECUの検査を行います。ECUとHILSの間は、電気的(デジタル、アナログ、PWM)あるいは通信(CAN、LIN、UART)で接続します。

別にHILSでなくっても、こういう電気的に接続した状態でテストする環境はいくらでもありますよね。では、HILSにはどんな特徴があって、何がうれしいんでしょうか?

HILSは「反応」を返す

たとえばECUが次の仕事をするとしましょう。

(1)ユーザーが、スタートスイッチを押す
(2)ECUが、電源リレーをオンする
(3)ECUが、正常にリレーがオンされたかどうか確認する

これを、従来型とHILS、それぞれの場合において見てみましょう。

従来型の検査装置の場合

(1)ユーザーが、スタートスイッチを押す

検査装置のボタンを押すことで、ECUに「スタートスイッチが押されたよ」と伝えます

(2)ECUが、電源リレーをオンする

実験室にバッテリーを持ち込むと危ないので、ここではリレー駆動信号の状態を検査装置で見るだけにします。

(3)ECUが、正常にリレーがオンされたかどうか確認する

たとえば、リレーがオンされたら100ms以内に電圧が出てくるはず、としましょう。しかし、いつまで待っても電圧が出てくるわけもなく、ECUは異常判定を返します。

(普通は、そうならないよう工夫しますよね。実リレー&バッテリ代わりの安定化電源を用意するとか。まぁ、話の都合上という事でここはひとつ。)

HILSの場合

(1)ユーザーが、スタートスイッチを押す

HILSのGUI上でボタンを押すことで、ECUに「スタートスイッチが押されたよ」と伝えます

(2)ECUが、電源リレーをオンする

リレー駆動信号がHILSに入力され、HILSの中の仮想リレー(=モデル)がオンします。

(3)ECUが、正常にリレーがオンされたかどうか確認する

HILSの中の仮想リレーがオンされた結果、バッテリー電圧に相当するものがHILSから出てきます。ECUはそれを見て正常判定をします。

 つまり?

HILSのうれしさとは「反応」を返してくれる所にあります。ECUがリレーをONすると電圧が出てくる。それをECUが読み取ってから、次のシーケンスに進む。こういった、「制御対象の反応をみつつ、制御を行う」ようなECUには、HILSのように反応を返してくれる検査装置が便利です。

HILSはどうやって反応を返すのか

HILSの中では、Simulinkモデルが動いています。たとえば、きっかり1ミリ秒毎に演算を行い、実機と同じようなタイミングで動作します。(1ミリ秒なのか50マイクロ秒なのか、システムによって演算タイミングはまちまちですが。)

上記の例であれば、こんなモデルが動いていることでしょう。これは、リレーやらバッテリやらを模擬するためのモデルです。これをHILSの中で動かすことにより、ECUから見るとさも実機があるように見せかけます。

 FAQもどき

誰にも聞かれていませんが、勝手に答えちゃいます。

Q.HILSがあれば、実機試験とか要りませんよね?

A.まさか。とんでもない。

HILSは実機試験の代わりには一切なりません。どうしてもそうしたいなら、「HILSと実機は寸分たがわぬ動きをする」ように作り上げ、なおかつそれを証明しないといけません。そんなの1億円もらってもヤです。

使いどころとしては、「実機で試してみる前に、まずはHILSでアラ取りをしておくか」というくらいが妥当です。そもそも、ぶっちゃけ実機が50万、100万で用意できるなら、HILSなんか買わないで実機使ってテストしたほうがいいです。

HILSがうれしいのは、実機の数が限られていたりして、「実機ふやすより、HILSふやす方が安上がり」という場合です。(ほかにも理由はイロイロありますが、そのあたりはHILSベンダーさんが一生懸命宣伝されてると思います)

Q.リレーのオンオフみたいな簡単な事、モデルで書かなくても良くない?

A.はい。まったくその通りです。

この程度の事、従来型の検査装置でも、ちょっと工夫すれば何とでも対応できてしまいます。

じゃあ何故モデルを使うかというと、もっともっと複雑な現象を模擬したい場合があるからです。エンジンとか、モーターとか、バッテリーとか、検査装置でちょちょいと工夫するにはあまりに大変な場合、Simulinkモデルで書く方がラクです。(まぁ、Simulinkにこだわらずとも、MapleSimなどシミュレーション向けのツールで書いてもいいですが。)

逆に、ちょっと工夫すればモデルなしでも出来るような検査に対して、HILSを使うことはお勧めできません。

 Q.とにかく、HILSさえ買えばいいんですか?

A.いえ、いいえ、残念ながら。

モデルを準備したり、ECUとHILSの電気的な接続を用意したり、いろいろ大変です。モデルは汎用品がパッケージ売りされたりもしてますが、それをそのまま買ってきさえすればハッピー、という話は寡聞にして知りません。(逆の話ならいっぱい聞こえて来ますが)

HILSを使いこなすには、HILSの面倒を見る要員を自社で用意するなり、ベンダーに依頼するなりしないといけません。私もたまーに、「HILSはあるんだけど、動かない、ってか使えない。何とかして」というご依頼をうけて何とかさせていただく事があります。ちなみに今(少なくとも2013年3月いっぱいまで)は忙しすぎてアレですが、NEATさんあたりに相談されると何とかなるかも分かりません。